書評

【西田哲学】西田幾多郎を知るための入門書&動画を紹介

【西田哲学】西田幾多郎を知るための入門書&動画を紹介

日本初の哲学者、西田幾多郎。戦前、京都帝国大学(現在の京都大学)で教鞭をとっていた彼は、大東亜戦争を”肯定”するような論文を発表していたことから、彼の弟子である京都学派の面々も含めて、さまざまな面で議論が続けられている人物である。

私は今年の春、西田幾多郎の哲学を学ぶ講義に参加する機会を得た。とても貴重な経験だったのだが、私はベースとなる哲学の知識がほぼゼロ(入門本を何冊か読んだだけ)の状態でいきなり難解な西田哲学の世界に飛び込んでしまった。受講後に提出したレポートはおそらくひどい出来であったと思われ、先生には申し訳ない限りだ。

とはいえ、夜中まで頑張って書いたのです…

それでも、対面で直接授業を受けるというのは代え難い経験だ。ひよこが一番はじめに見た生き物を親と思うように、私も「一番最初に知った哲学者を師と思う」ようになった。西田の顔写真には近所のおっちゃんのような愛着を感じ、西田の随筆『我が子の死』をうっかり電車内で読んでしまい号泣したりもした。

この記事では、私が西田哲学の理解のために読んだ&観たコンテンツを紹介する。それぞれのおすすめポイント&微妙ポイントを挙げているので、自分に合いそうなものを選んでほしい。それではどうぞ。

まずは西田幾多郎の肉声を聞いてみる

最初に紹介したいのが、京都大学による西田幾多郎の紹介動画である。11分の短い尺で、西田の思索の源泉である「禅」の思想から「純粋経験」「無の場所」など西田哲学を代表する用語を簡潔に紹介している。

この動画の特筆すべき点は、西田の生の声が聴ける事だ。石川県にある西田幾多郎記念哲学館では彼の肉声が聴けるコーナーがあり、おそらく京都大学にも講義テープが存在すると思われるが、ネット上ではこれが唯一ではないだろうか。

リンク:京都大学 西田幾多郎 無の哲人:禅の思想から日本哲学へ(YouTube)

本人の著作を読んでみる

『善の研究』西田幾多郎

これは完全に個人の好みだが、私はまず本人の著作を読んでから解説本を読むタイプだ。とはいえ、全集19巻分もある西田の著作を読み切る自信はとてもないので、処女作である『善の研究』のみを読むことにした。当然ながらちんぷんかんぷんではあったが、文体や雰囲気は掴むことができる。まずはこちらを読もう。

リンク:『善の研究』西田幾多郎 (Amazon)

この本は、西田が働いていた旧制高校の教え子に頼まれて作った講義資料がベースになってるんだって。レベル高すぎィ!

100ページで学ぶ西田哲学

今を生きる思想 西田幾多郎 分断された世界を乗り越える

入門本として最もおすすめなのが、講談社から出ているこちらの本だ。100ページという限られたページ数で、初期・中期・後期の西田の思想とその背景を、現代の私たちにも身近な例を用いて丁寧に説明してくれる。西田哲学の基礎体力づくりにぴったりな一冊だ。

リンク:『今を生きる思想 西田幾多郎 分断された世界を乗り越える』櫻井歓 (Amazon)

たったの100ページと侮る事なかれ。西田の人生の軌跡も辿れる一冊。

西田の弟子たちの思想を学ぶ

京都学派

西田の弟子たち、いわゆる「京都学派」の人々の思想・哲学を教えてくれるのがこちらの本だ。表紙を見ると一見、京都学派の戦争責任に切り込んだような内容かと思うが、これは若干ミスリードであり、かなり思想面にスポットライトが当てられている。そのため、哲学の知識がない人にとっては難易度は若干高めだが、京都学派の面々がどのような思想を持ち、お互いどのように影響を与えってきたのかを知るにはぴったりの本である。

一点、この本の作者は独自の政治的信念を持っているようで、ちょいちょい(どちらかといえば左派的な)本人の思想が挟まれている。気になる人は気になるかもしれない。

リンク:『京都学派』菅原潤 (Amazon)

それってあなたの感想ですよね?

京大名誉教授・佐伯啓思先生による西田解説

京大名誉教授・佐伯啓思先生による西田幾多郎解説がこちら。東洋文明と西洋文明の違いや当時の時代背景も踏まえて、1時間半たっぷり西田について語ってくれている。西田についての著作も出されており、文明論や政治思想にも詳しい佐伯先生でも「西田哲学は分かりづらい」らしい。ちょっと勇気が出る(すみません)。

リンク:【佐伯啓思】日本の近現代を問い直す 西田幾多郎の「無の思想」とは 西田が「無の思想」に至った時代背景とその思想の本質を考える(YouTube)

穏やかな語り口。聞き手のだいまりこさんもナイスアシスト。何回も観てます…!

西田哲学の主要キーワードを理解する

NHK「100分de名著」ブックス 西田幾多郎 善の研究

4章から成る『善の研究』を、それぞれの章を代表するキーワードを元に解説している本がこちら。この本の斬新なところは、第4章→第3章→第2章→第1章と、善の研究を逆から解説している点だ。

「4つの章を逆から読めば、意外なほど腑に落ちる」という触れ込みだが、私は当初、「最もわかりやすく解説」されているはずのこの本がとても難しく感じた。しかし、戸惑いながら読み進めていくと、その原因が分かる一節があった。

提案したいのは、西田が『善の研究』を書くことによって「わたしの哲学」を発見しようとしたように、読者であるわたしたちもそれぞれの「私の哲学」を書く、すなわち「論究」することです。

引用:日常で深める哲学 善の研究 西田幾多郎 P.104

要するにこの本は「西田哲学はこういう意味ですよ」という受け身の解説本ではなく、「西田はこう考えました。あなたはどうですか?」と読者に能動的な思考を促す本なのだ。筆者は文中で、その手本を示してくれている。ー西田の思索を参考に、自分の哲学を作り上げていくー とても恐れ多い話だが、そういう読み方もありなんだ!と勇気をもらえる一冊だ。

リンク:『日常で深める哲学 善の研究 西田幾多郎』若松英輔 (Amazon)

間違ってるとか合ってるとかない。西田を師として、自分の哲学を見つけよう!